何かあったのかと謂えば別にそんな事は無い。
ただ、自分の中にも獣という物は存在している訳でして。
断末魔の悲鳴さえ上げず、目の前で消えうせる。
銀色に光る金属により生み出された偽りの生。
その背をなぞった指を口元にやり、 ――浮かぶのは喜悦。
あぁ、あれだ。あれに似ている。
足元にある黒いもの。
あれだ、あれ。
夢中になったなぁ。
それがどんなに残酷な事かも知らずに。
そうだ、あれにも似ている。
足元で拉げる、 あれ。
避ける。
そしてその勢いを利用しての、一撃。
体格は恵まれていない。
だから、一撃。
悪いのは向こうだ。
訳の判らない事をほざいて吹っかけてきたのは向こう。
俺があの人に気に入られているのが、そんなに気に食わない?
知るか。好きで好かれている訳じゃない。
多勢に無勢?知るか。
知らない。知らないさ。
判らない。もう如何でも良かった。
ぞくぞくするね、正直。
でも、今はそんなの比じゃない。
正真正銘、命を懸けたやり取りだ。
殺意も何も無く振りかざされる一撃。
咄嗟にガードしても響く衝撃。
やっぱり力任せの攻撃は防ぎきれない、か。
だが、それはイコール此方の一撃も向こうは防ぎ切れないと謂う事。
嗚呼、嗚呼!
振りかぶる、投げつける、
切り裂いた場所が氷で覆われるのを見、笑う、嗤う。
―――おいで。
一瞬で目の前に迫る刃。
目は逸らさない。ただその刃の軌跡だけを見やる。
恐ろしく早い、心臓を貫かんとする刃。
半身を捻り、避ける。
少し掠めたかも知れない。如何でもいい。
ゆっくりと、自分が感じているだけかもしれない。ゆっくりと、優しく、その刃を持つ腕をなぞる。
「さよなら?」
相手の動きが止まる。氷が全てを覆いつくす。
果たして耳元で囁いた言葉は聞こえただろうか?
如何でもいいけどさ。
崩れ消え去る偽りの命。
嗚呼、いいね。吐き気がするよ。
これだから前に出るのは嫌なのだ。
愉しくてたまらない。
後ろからもう一つ。
あぁ、そう謂えばまだ居たっけ?
これは避けれないかも知れないなぁ。
「・・・何をしているんですか」
首だけで振り返った先には敵を切り裂く刃。
…あーあ。
「別に。弱いお前さんを引率しているつもりだけど?」
「・・・申し訳、無い」
…あーあ。
嘘を吐いちゃった。
溜息を吐きそのまま濁った天井を見上げる。
さっきまですっかりその存在を忘れてた。
…やっぱり前に出るのは嫌だわ。
今度からは氷雪地獄を活性化しよう。
なるべく前に出ないようにしないと。
ま、その為には
「さっさと前に出れるだけ強くなりな」
「・・・俺、使役使いなんですけど」
「……そーね」
2人だけでゴーストタウンに来るのは止めにしようか。
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